2012年9月29日土曜日

「最初の10分は帰ろうかと思いました」


皆さんこんばんは、プロデューサーの山本です。

『ふとめの国のありす』、初日舞台挨拶「おとこおんなデー」の開催も決まり、いよいよ劇場公開もカウントダウンを迎えておりますが、先日のマスコミ試写にお越し頂いたライターの若木康輔さんより映画の感想を頂きました!! ありがとうございます!!

ぜひご覧下さいませ!!!!


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あらかじめ。以下の文章は、僕、若木康輔が現在関わっておりますドキュメンタリー専門媒体「neoneo」( http://webneo.org/ )のインフォマーシャル用にフェイスブック上で書いている、【neoneo的メモ】から、こちらのブログに転載して頂いたものです。

【neoneo的メモ ♯10】
映画『ふとめの国のありす』(10/6より下北沢トリウッドでロードショー)

久し振りに、国内劇映画の新作をマスコミ試写で拝見しました。映芸ダイアリーズの一員だった時までと今年とでは、まるっきり優先順位が変わってしまったなあ。
もともと映画ライターとしては、試写で見る新作はまとまった評を書くか書かないかのどっちか。感想をSNSにササッとメモして「応援」するイージーな態度は控える、とガンコに決めていたのですが、編集にまわる身にもなって、そこらへんは少し柔軟になりつつあります。それに、実際にneoneo的メモをしたくなる映画だった。

高校の先生をまだ想っているゲイの青年「ありす」と、その先生に今まさに恋している最中の女子高生「うさぎ」が、ひょんなことから出会って……というおはなし。
見た後、プロデューサーの山本氏(初対面)に伝えた感想は、「最初の10分は帰ろうかと思いました」。
漫画やティーン向け学園ドラマにしか出てこない人物行動パターンの、頭でこさえたパッチワーク。昔よくあったでしょう、パンをくわえて「遅刻、遅刻!」と走っていたら角で異性の生徒とぶつかって……みたいな。精神レベル的にはアレ並な滑り出しなので、ケンカ売ってんのかとさえ思いました。そんなだから、もちろん演出もなにも、みんなぎこちないし。

ところが。「ありす」と「うさぎ」の好きな、イエスさまのように優しい先生にも、どうやら屈託が……というあたりからは、ぎこちないまま映画に力が出てきます。
頭でこさえたシチュエーション・コメディの部分はメタメタなんですが、もともと作り手のなかにある、描きたかった/言いたかったことになると、ズキッとするぐらい良いところがあちこちに。
ざっくり言うと、「ありす」も「うさぎ」も先生も、監督(トリウッドスタジオプロジェクトなのでまだ若いらしい)自身の投影です。別々の人物として対象化しきれていない。すべてのキャラクターが自分の分身と認めているエヴァの庵野さんと同じ。こうなると、3人が“愛すれど心さびしく”な思いをぶつけあっても堂々めぐりになってしまい、ドラマの進展が弱い。
なので、劇映画としてはまだまだ未熟、ということになるのですが。劇映画のかたちに託した監督ひとりの心情と他者への希求の吐露、シンガーソングライター的な作品と捉え直すと……、この映画、好きだなあ。ドキュメンタリー映画だけがドキュメンタリーじゃないんだ、と改めて思います。ゆえにneoneo的メモ。

人が好きな人とちゃんと向きあうってどういうことだろう、と愚直にかんがえ、心に刻んだものを画面や言葉にしている。その1点がホンモノならば、演出や脚本がガタガタでも美しいのだ。僕のほうが学ばされる気がしました。もちろん大森一樹『恋する女たち』(1986)のように、キマジメな愚直とおはなしを見るたのしさは両立できるヨ、と鮮やかに立証した(年に2度は見直したくなる)名作はありますから、それでよし、と言うつもりはありません。カンタンに青田買い目的の「応援」を僕はしない。でも、シンガーソングライターの荒削りなファーストに接する喜びって、やっぱりあるからねえ!

あと、これもなかなかドキュメンタリー的だった余談。
試写の席で、とてもキレイな若い女性がいました。(なにしろ試写会場がトリウッドなのでどうしても目につく) キレイだけど、ブスッと不機嫌そうで。
試写が始まったらそれはすぐに忘れて、女子高生役のコが好演なのに感心。ブスッと不機嫌にいろんなこととたたかってる感じ、よかった。
で、見終ったら、さっきの女性が「あー、フシギな感じです!」と、ロビイで花が咲いたような明るい笑顔を見せていて、さっきのブスッとの違いがやたら眩しかった。……似てると思ったら、主演の木咲樹音サンでした。新人女優が初主演作の試写をナーバスに緊張しつつ見る。見終ってホッとした笑顔がこぼれる。両方の表情をたまたま見せて頂いたわけでした。僕がディレクターで両方をカメラにおさめていたら、さぞかし編集のやりがいがあったろうなと思います。それぐらい、ステキな落差でした。